裁量労働制はいいの?悪いの?

厚労省からのデータの不備で、国会での審議が紛糾し採決見送りとなった裁量労働制の拡大、与野党間政争の材料に利用され、働き方改革への政策推進が滞るのは回避してもらいたいところだが、裁量労働制は重要なテーマの一つであり慎重さが必要であることも確かである。

産業界を後ろ盾とする自民党が勧める裁量労働制は、企業経営側には選択肢として確保しておきたいツールである。しかし、すべからく制度に当てはまることだが、制度の中身よりも、その使い方が大切であり、諸刃の剣にもなり得ることに注意が必要だ。裁量労働制も、本来は適さない従業員に対して、または適していても、本人の認識不足のまま適用すれば、会社と従業員双方にとって不幸な結果を招く。さらに企業としても、労務管理を働く側に押し付ける感覚であれば、その責任を放棄することになり、経営管理力の弱体化につながりかねない。実際に、裁量労働制が労働時間長期化をもたらし、働き手の生産性を低下させるケースも少なくない。その結果、裁量労働制を止めることで職場環境が改善される例も散見される位だ。

例えば、企業のホームページ運営代行を手掛けるメンバーズは、IT企業らしく裁量労働制を採り、業容拡大に向け様々な事業に進出したが、体制づくりが追いつかずに従業員の長時間労働が常態化、大量離職を招き、採算も悪化、根本的な戦略と体制の見直しを迫られた。そして事業の絞り込みと共に、裁量労働制を廃止して就業時間を固定した結果、業務の効率性とサービスの質の改善で業績は回復させた。ベースアップの導入を含めて、社員の働きやすさ重視に舵を切ったここともあり、多くの企業が採用難に苦しむ業界にあって従業員数を3.6倍に増やしたという。

こうした事例に、「だから裁量労働制は導入すべきでない」と反応するよりも、するべきは、その誤った使い方から学ぶことであろう。メンバーズ社では当初、業界の他社に倣って、経営側も従業員側も十分な準備なしで制度を導入したものと考えられる。その反省から取り入れた働き方改善への意識を、最初から合わせて持っていたら結果は違っていたはずだ。

サービスの高度化が進む中、知的ワーカーには自ら生産性を高めることが求められ、それが自身の幸福度も上げよう。そのために働き方の選択肢は多いに越したことはなく、裁量労働制は適切に活用すれば、働き方の多様化の一環として効用が期待できる。実際に、裁量労働制を機として、より自身で時間と能率を考えるようになり、働きやすくなったと回答する人も少なくない。

そこで、裁量労働制活用の基盤となるのは、会社と従業員が、労働時間を含めた働き方、目指すべき成果、それに対する報酬などについて、共通意識を醸成しておくことであろう。その為には、経営、管理者、社員の間における縦のコミュニケーションを、手間暇を惜しまずに行い、導入前の制度への理解を得ることから始まり、導入後もモニタニングと修正を継続して行きたい。

労働管理においても肝となるのは制度そのものではなく、その使い方である。働き手が制度の主旨や効用に納得し、仕事そのものにやり甲斐を感じれば、本人のエンゲージメントが高まり、自らが幸せを感じることにつながる。幸福度の高い社員は時間に厭わずに働く状況も自然と構築できるようにもなる。そうした社員を増やせれば、会社の業績も正比例して上がっていくのである。