職場環境改善に関わる、個人の幸福度と企業の業績の関係性は前回のコラムでデータとともにご紹介させていただいたので、今回はそもそもの原点となる【日本人の幸福度】のお話。
残念ながら日本人の幸福度は、毎年世界ランクの50位あたり(国連調査「世界幸福デー」世界155か国対象)で常に低迷しており、その理由も定説も従来通りのままである。
「日本人の幸福度が低い理由」定説:
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- 日本人は幸せを他人と比較して決める傾向があるため
- 自己主張と自己評価が控えめな国民性ゆえ
- 人生の選択に対する自由度が低いから
アメリカでは、従業員の幸福度が高いと顧客満足度も高くなるという研究結果が出ており、すでに世界的なトップカンパニーでは、CHO(チーフハピネスオフィサー/Chief Happiness Officer)と呼ばれる社員の幸福度向上を専門とするコンサルタント的立場の役職も設けられはじめている。CHO導入後、社員定着率が90%増となった企業もある。
CHOたちは、職場環境改善のツールとして心理学や行動学を取り入れたコンサルティングや科学的なアプローチで【幸福度】を診断するテストなども積極的に取り入れ、現場で活用している。幸福度が実態もなく数値化も難しいものだという常識は、もはや過去の考え方なのである。
【幸福】が何かにつけ良いだろう、ということを疑う人はいないだろうが、会社という組織の中で、社員の幸福度を上げるのに専門職と大プロジェクトを以てして取り組まないとならないのはなぜなのか。
それは、幸福感よりも不幸感の方が日常的で身近にあり、慣れ親しんでるからに他ならない。真剣に【幸福】に取り組むのだから、その反対にある【不幸】についても真剣に向き合い【日本人はなぜ幸福度が低いのか?】を逆からも取り組んでみると答えが見えてくる。【日本人はなぜ不幸度を高く保てるのか?】。そこにはメリットも恩恵もあるはずなのだ。
不幸自慢のメリット:
不幸な自分の状況を話していると…
- 話を聞いてもらえる。注目される(ような気になる)
- 芯が強く、困難に立ち向かえるデキル人だと思われる(ような気になる)
- 自分をわかってもらえる(ような気になる)
不幸でいることの恩恵:
自分が可哀そうな状況にいることをアピールすると…
- そっとしておいてもらえる
- 気を遣ってもらえる
- 今すぐは変わらなくていい
- 怒っていてもいい
- 自分で考えなくてもいい
- 責任をとらなくていい
- 優しい人が自分の代わりに何でもやってくれる。
- 自分以外の人、状況、運のせいにできる
まずい…意外にもメリットも恩恵も多いではないか。だからこそ、不幸のもたらすメリットが習慣となり癖になっている社員は減らない。職場全体の雰囲気や働き方、物事の捉え方の癖ともなり、業績向上どころか悪化の道へ貢献しているのである。不幸癖に会社をコントロールされている場合ではないのだ。
会社という組織の中で、幸福度の高い社員を抱える恩恵に今一つピンと来ないなら、幸福度の低い社員を抱えるリスク、幸福度の低い職場環境を継続する恐ろしさに目を向ける方が、皮肉ではあるが、その緊急性も重要性も実感しやすいのだ。
職場環境が変われば幸福度も変わる
話を聞いてもらいたい、注目されたい、困難に立ち向かうデキる自分を認められたい…不幸自慢が癖にになっている人の本質は、裏を返せば会社の恩恵となり得る活かせる人材でもある。不幸でいることの恩恵に浸っている人は、職場環境が「社員幸福度の高い場所」に変化していくことで、当然ながら【居心地の悪さ】【違和感】を感じるようになるはずだ。環境の変化は、個人に自分のために自分で考え、自分で動く、という慣れ親しんだ不幸癖からの脱却のきっかけともなり得る。職場環境改善は、個人の人生観をも豊かにできる可能性も持っている。
今の時代だからこそ求められるCHOという役職も、幸福度調査のテストやワークショップも、習慣化された会社の癖の修正の突破口になり得るのだ。職場環境の改善や働き方改革を大きく動かすのは、これまでは会社の業績には直接の関連性がないとも思われていた、【幸福度】という新分野の専門職やプロジェクトであることは間違いない。
文:永田広美 ワークスタイルコンサルタント